軍の支配するビルマ ─ 民主化への兆しは見えず − (1) |
|||||||
|
|||||||
< スーチー氏への嫌がらせ判決 > 「スーチー・・・」 思いがけない名前が突然、耳に入ってきた。今年2月、ビルマの首都 ラングーン(ヤンゴン)、下町にある友人の事務所に遊びに行っていた ときのこと。 声の方向を振り向く。 事務所内でひそひそ話をしていた ビルマ人4名は、さらに声の調子を落とした。アンサンスーチー氏の身 に何かあったのだろうか。目の前にいたビルマ人の友人Sに、「何か あったのか?」って尋ねてみる。 「なんでもない」 いつもは笑顔で陽気な彼女も、素っ気なく答えを返してきた。なんか よそよそしい。そのことが気になり、話を続けようとしても、「それ以上、 質問しないで」。そんな態度だった。政治の話はビルマ人同士でも危険 な題材。まして、外国人の前ではタブーなのか。 その日の夕方、定期的に情報交換をしているビルマ人のKH(35)から 電話があった。 「ちょっと会いたい」 電話では短いメッセージの交換だけ。すぐに待ち合わせの場所を取り 決める。彼とは何度も会っているが、安全上の理由から同じ場所で 会ったことはない。数時間後、彼から早速、その日のスーチー氏の 出来事を聞いた。 裁判所で一つの判決が言い渡された。スーチー氏の家の所有権を巡り、 氏と従弟との間にトラブルがあった。従弟がスーチー氏に暴力を振るい、 裁判沙汰までなった。KHから電話があったのは、そのトラブルに判決が 下りた日だった。 判決は、従弟側に1000K(チャット=ビルマの貨幣単位)の罰金、もしく は拘留という結果だった。しかし、被害者であるスーチー側に対しても 500 Kを払うか、あるいは1週間の拘留か、という判決だった。KHに よると、この両成敗的な判決は、軍政権(SPDC=国家平和発展協議会) の裁判所への圧力による、スーチー氏に対する嫌がらせだそうだ。 裁判そのものが公平でないと主張するスーチー氏側は、500Kを払うより も1週間の拘留を選んだ。現地で500Kというのは、町の食堂で、焼きめし を食べるくらいの額である。判事の方も、まあこのくらいならスーチー氏は 払うだろうと思ったようだ。 しかし、スーチー氏は、刑の量刑よりも裁判のやり方に異議を唱えたのだ。 スーチー氏が拘留されることになれば、それは国際社会にまた大きな反響 を与える。 スーチー氏は昨年5月、2度目の自宅軟禁から解放されたばかり。彼女は 自由の身になって以来、各地方都市に作られたNLD(国民民主連盟・ スーチー氏は書記長)のオフィスを精力的に訪問していた。 国内外共に、軍政と民主化勢力との対話を感じ始めていた時期だ。そんな ときにこの判決。和平の雪解け機運に水を差すかも知れない。裁判所は 困った。スーチー氏を拘留してしまうと、ビルマ国内の司法制度の不公正さ を指摘されるのは目に見えている。 拘留覚悟でスーチー氏は裁判所に立てこもるような形になった。TVや 新聞、ラジオで速報されなくとも、スーチー氏の動向は人びとの口から口へ 噂としてすぐに広まる。裁判所の外では人びと集まり始めていた。夕方4時 過ぎ、裁判所側は結局、「超法規措置」でスーチー氏の無条件での帰宅を 許可した。この時期はまだ、5月末に起こる「血の日曜日事件」の兆しなど 全くなかった。 |
|||||||
|
|||||||
|
|||||||
|