果てのないカレンの武装抵抗
─ ビルマの辺境 ─ 歴史と民族の隙間に生きる人びと
を避け、知り合いのカレン人Ｄの家に、隠れるように泊まり込んだ。その
とき、Ｄの元に、タイ側に住むタイカレンのおばあさんが訪ねてきた。
「タイ側に住んでいる親戚なんです」。そう紹介された。２つの国を隔て
るサルウィン河をはさんで、人為的に引かれた国境線が、一つの民族、一
つの家族関係を分断している。
また、キャンプ内で、スゴーカレン人とポーカレン人の話に耳を傾けて
いたとき、彼らがビルマ語を使って話をしているのに気づいた。「あれ、
なんで」と思った。後で説明を聞いた。人口の多いスゴーカレン人はポー
カレンの言葉を十分に理解できないらしい。言葉は違うのだ。でも、彼ら
は同じ「カレン民族」として文化や歴史を共有している。「言葉が違えば、
民族が違う」。そういう民族の分類方法もここでは通用しない。いったい
誰がこんな民族の区別をするようになったのか。国家にしても、民族にし
ても、我々はどんな基準で区別してきたのだろうか。基準の背景をあまり
考えず、ありのままを簡単に受け入れてきてしまった。彼らの民族の歴史
の一つをかいま見たような気がした。
１９９０年の総選挙の結果を反古にし、武力で政権を維持し続ける現在
のビルマ軍政権は説明する。
「ビルマには１３５もの異なった民族がいる。それらをまとめ上げるには、
今の政権以外では不可能だ」。ビルマ国内の民族数は、４０弱とする説も
ある。自らに都合のいい考え方にしがみつく権力者の姿だ。そんなビルマ
軍政権に同調するアセアン諸国と日本政府。
カレンの取材にも慣れた１９９８年の夏、久しぶりにメーサムレップに
やってきた。ＫＮＵと袂を分かち、ビルマ軍政権下に入ったＤＫＢＯ（民
主カレン仏教徒同盟）の兵士たちが越境を繰り返し、タイの村やカレン人
難民キャンプに襲撃を続けていたころだ。
メーサムレップはタイ国境軍によって厳重に警備されていた。サルウィ
ン河の対岸には、赤いビルマ国旗とＤＫＢＡ（民主カレン仏教徒軍＝ＤＫ
ＢＯの軍事部門）の黄色い旗が並んではためいている。メーサムレップは
勝手知った所だ。タイ兵士の警備線をすり抜け、サルウィン河の岸辺まで
行った。そこで、ボートを借り切り、ビルマ側へ上陸した。
ビルマ側では、すぐに警戒の兵士がやって来た。私は「ニラゲー、ワラ
ゲー（こんにちわ、こんにちは）」とカレン語で挨拶した。だが、彼にカ
レン語は通じなかった。どうやらその警備兵はビルマ兵らしい。
「将校に会いたいんだが」と指で肩章を示す仕草をした。
「ノー、ノー、ミャンマー、タイ、タイ、（だめ、だめ、ここはミャンマ
ーだ、タイへ、タイへ帰りなさい）」
明らかにその兵士は、いきなり河を渡ってきた外国人にとまどっていた。
「ナム、ナム（水、水）」とタイ語を言いながら、額の汗を拭く。
「暑いから、水だけでも飲ませて」と今度は英語で話しかけながら、近く
の小屋に上がり込んだ。小屋の中には自動小銃（Ｍ16）をかついだ兵士が
数名座っていた。これは絵になる。あわててシャッターを切った。だが、
完全な逆光で絵にはならない。フラッシュさえあれば・・・。
「だめ、だめ、帰りなさい」。カメラを出して写真を撮った瞬間、語調が
強くなった。雰囲気が変わった。仕方ないなあ。帰りはビルマ軍のボート
でタイ側に送ってもらった。
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