果てのないカレンの武装抵抗

─ ビルマの辺境 ─ 歴史と民族の隙間に生きる人びと
 ボ・ジョー司令官と二人っきりになったとき、カレンの現状について、
率直に聞いた。
「カレン人のこと、カレンの今の戦闘のことを考えると、実は夜も眠るこ
とができないだ。昨日も2時間しか眠ることができなかった。考え込むと、
気が狂わんばかりになる。一体どうしたらいいのか」
私に問いかけるように話す。
 カレン人として、また兵士として16年間、どんなときに幸せを感じた
のだろうか。
「never never really happy(幸せなんて、いまだかつて感じたことなか
ったよ)」
 単語を一言ずつ句切りながら、絞り出すような口調で続けた。
「でも、兵士としてKNLAに参加したとき、私は誓ったんだ。『兵士と
なったからには明日死ぬかも知れない運命だ。しかし、カレンのために最
後まで闘うんだ』と。今、我々が今、武器を持つのを止めると、我々は確
実にビルマ軍に滅ぼされてしまう」
 私は、どう続けていいのか分からなかった。92年、私が中米エルサル
バドルの停戦時に目の当たりにした経験を語った。
「その時、山にこもっていたエルサルバドルのゲリラたちは、胸を張って
山を下りてきたんだ。そんな彼らを市民たちは熱狂的に迎えた。そんなこ
ともあったんだよ」
 遙か遠い中米ゲリラの話、私が見たKNUの現状、さらに過去訪れたビ
ルマの町の様子を夜遅くまで話した。ボ・ジョーは熱心に私の話に聞き入
ってくれた。

 その夜、ディゲが、密かに私に告げた。
「明日からの行軍はかなりきつくなるから、来ない方がいいです。できれ
ばこの場所でボ・ジョーを待っていて欲しい」
 ボ・ジョーと一緒にいる時間は限られている。そう思うと、できるだけ
話をしてたかった。だが、ディゲがそう話すには何か理由があるのだろう。
ボ・ジョーへの同行は諦めた。
 翌朝、目が覚めると、ボ・ジョーは既に司令部を後にしていた。

 「新世紀」の朝を迎えた。朝8時過ぎ、ようやく身体が動く暖かさにな
った。司令部の広場の隅で、たき火を囲んで人の輪が出来ている。声を張
り上げて話しているのはレゲーじいさんだ。タダダー村はずれに住んでい
る元村長さん。年齢は教えてくれない。
 彼の話す流ちょうな英語は、ラジオと書物から学んだという。私に得意
げに話しかけてきた。
「昨日の夜、ランチャー(迫撃砲)の音聞いたか」
「2発、3発聞いたよ」
「ボ・ジョーの率いるカレン軍とナワタ(ビルマ)軍がやり合ったんだ」
 このレゲーじいさん、日本人を懐かしく思うのか、いろいろと世話を焼
いてくれる。今朝は餅米を炊いて、大ぶりのおこわのおにぎりを作ってき
てくれた。
「うまい、うまい」と喜ぶ私に、60年近い昔の話をしてくれる。
「おまえさんは身体が大きいな。昔このあたりに来たプコー(日本人─カ
レン語で「短足」の意)は、みんな小さかったよ。でも、プコーは勇敢だ
ったなあ。それでもなあ、プコーは、村の人をつかまえては殴ったり、ひ
っぱたり、ずいぶんとひどいこともしたんだよ。だから我々は英軍と一緒
に日本軍相手に必死で闘ったぞ」
「私はプコーというより、タコー(長足)だろ。だから逆に前線に行くの
が怖い臆病者なんだ」
そんなレゲーじいさん、急に声を荒げて、聞いてきた。
「きさま!きおつけ!だまれ!ばか!──これはどういう意味なんだ?」