金 明植 『 帝国の首枷 』
( 『辺境』1 影書房 1996年・10)

二 「日本の貧困」


        飽食

さあ 眼を 開けて
お腹が空いて 泣いている あの子たちの姿
 を とくと ご覧なさい

あなたがたが 飢えた者の 隣人ならば 一
 度ぐらいは 考えてご覧なさい
食べ残しの 食べものの 量と
猫や 犬に 与える 莫大な 量の 餌と 消
 耗を
考えて ご覧なさい

飽食のあとに 訪れる 懶怠と享楽は 考え
 なくても いいですよ
あなたがたの 食卓の前で 頭を下げ
一度でいいから 考えてご覧なさい
お腹を空かして 泣いている あの子たちと
泣く子を あやしている 母親と
食べ物を 探し歩いて 倒れた 父親の気
 持と
飽食のあとに 訪れる 無数の搾取と支配
 の 刃を
一度でもいいから くらべてご覧なさい

わかるはずですよ
あなたがたが 食べる 食べ物と
あなたがたが 飲む 酒が
どれほど 貴い血の 代価であるかを
どれほど むごく奪った 食べ物であるか
 を 酒であるかを

さあ耳を こじあけて
お腹を空かして 泣いている あの子たち
 の 泣き声を 聞いてご覧なさい

胸が 裂け
腹が 破れ
からだごと 震わせて 泣く あの 泣き声
 を
一度でもいいから 聞いてご覧なさい
あなたの子が 泣いているのかも しれない
 のです
あなたのきょうだいが 泣いているのかもし
 れないのです

聞いてご覧なさいよ
あなたがたが 飽食のあとに 捨てる 食べ
 ものと
飽食のあとに 訪れる 享楽の 宴が
飢えた子どもたちの 大地の上で
油を しぼっているのかも しれないのです
あなたがたが 飽食のあとに 生じる 欲望
 と
飽食のあとに 訪れる 無感覚は
飢えた者を 嘲笑う 裏切りとなるかも し
 れないのです
病める者を 蔑む 反動となるかも しれな
 いのです
さあ 心を 開いて
あの子たちの 希望を 抱いて おやりなさ
 い
奪っても 奪っても しかたのない ことな
 のでしょうか
虐げ 虐げられても しかたのない ことな
 のでしょうか
あの子たちの 夢が かなえられる わずか
 な 土地だけは 残して おやりなさい
わずかな土地から 夢の木が 育つように
わずかな土地だけは 踏みにじらないで お
 やりなさい

心を 開いて 心を 開いて
機械の 鉄車両に 命が 敷かれぬように
帝国の 支配が
子どもたちの 夢を 奪うことのないように
防いでおやりなさい 防いでおやりなさい

あなたがたの 食卓の 前で
一度でも 考えることが できるのなら
帝国の 軍備増強は 何のためであるかを
化学兵器の 生産は 誰のためであるかを
軍備予算は 誰の労働の 代価に よるもの
 で あるかを
軍事基地は 誰の土地の上に 建設されてい
 るかを
わかるはずですよ わかるはずですよ

まずは 眼を 見開いて 飽食の食卓を と
 くと ご覧なさいな

 
 血の祭祀
牛肉