金 明植 『 帝国の首枷 』
( 『辺境』1 影書房 1996年・10)
二 「日本の貧困」
東京の鳩
雑誌にも ポスターにも 鳩はいて
平和会議でも 鳩は 宣伝されているのに
東京の鳩は 行く場所を 失っている
東京は すべて セメントの 床
野原を 奪った 高層ビルは 太陽を 遮り
東京の鳩は 電線に 停まっている
大地の 息づかいも 途絶え
平和の 知らせは まだ遙か 遠く
東京の鳩は
セメントの 床で 餌を もとめている
豆もなく 清い 水とて なく
鳥の 囀りも 嗄れ声
東京の鳩よ!
平和の 餌は ひとところに 積まれている
休める ところは みな 電線と 変わり
東京の鳩よ!
おまえは 胸を痛めて 鳴いている
ふるさとの 友会いたさに 鳴いている
ふるさとの 友会いたさに 呻いている
グググ 線路わきで 危険を 追い
グググ アスファルトの 道で 餌をもとめ
ている
平和会議でも 鳩は 宣伝され
聖子の 結婚式場でも 鳩は 売られるが
東京の鳩は 平和の 知らせを 忘れている
東京は すべて 電子都市に かわるだろう
し
子どもたちの 笑い声は パーマンに 奪わ
れるだろうし
若者の 夢は 電子娯楽が かわりに 夢み
てくれるだろう
東京の鳩よ!
おまえは
この地では
都会の 吐き出す 毒ガスを 吸わねばな
らない
都会人の 食べ残した インスタントの く
ずを あさらなければ ならない
東京の鳩は
セメントの 床を 這い回るだけ
帰る ふるさとを 失い 親しい 友は み
な 去り
多忙な 市民は 資本を 蓄えるだけ
東京の 夜は 飽食の ネオンだけが 点滅
し
東京の 夜は 享楽に 踊り狂うだけ
夜は ふけ
東京の鳩は グググ
東京の鳩は グググ
平和の 餌を もとめている
失った 友を もとめている
帰る ふるさとを 探している
牛肉
駅前の屑籠に閉ざされた
平和のメッセージ