「ハットリバー王国へようこそ」

―オーストラリア大陸の独立国―
(『中央校論』1999年3月号)



 笑顔で出迎えてくれた王様は(73歳)、どこにでもいる農家のおやじさんだった。「王国」の長と名乗るからには、畏怖堂々とした王の姿を想像していた。それだけに、少し拍子抜けしてしまった。
 早速案内された王国内の郵便局では独自の通貨や切手を発行し、さらに入国ビザの発給さえしている。
 西オーストラリア州政府の小麦減反政策に反対した農場主レナード・キャスリー氏は1970年4月21日、独立国を宣言した。家族と苦労して作り上げた農場を守るため選択肢のない行動であった。それが、オーストラリア大陸内の知られざる公国ハットリバー王国である。
  噂を聞いて、西オーストラリアの州都パースからわざわざ北へ500`あがってきた。領土の広さ約75平方`、人口30人。ワイルドフラワーが所々に咲き乱れるオーストラリアの片田舎にある、ありふれた農家だ。 興味本位の観光客はがっかりさせられる。
  もちろんオーストラリア連邦も西オーストラリア州政府もこの王国の存在を認めていない。しかし彼は、法律上は独立が有効だとする裁判所の判例をたてに、連邦税や州税の納税を拒否し続けている。
  彼が私に熱っぽく語ったのは、「国家は最小限の形で、人民のために尽くすのが本来の姿だ。それが今は逆に、人民が国家に尽くしている状態だ」
  不条理と感じる国の政策に対して反旗を翻す彼を、「現代のドンキホーテ」として笑えるだろうか。
  彼の行動に感動したのは、不平不満を言うだけで自ら何もしない人たちを見飽きたせいだろうか・・・。


領土内に建つゾウの横でポーズをとる。サービス精神旺盛な王様でもある。

ハットリバー国発行の切手。オーストラリア国内なら、どこにでも手紙や葉書を出すことができる。